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建物賃借権の譲渡と建物の転貸

 

1.賃借権譲渡・転貸の意義

 

(1)譲渡と転貸の違い

 

賃借権の譲渡というのは、賃貸借契約によって生じた借主としての権利・義務、言い換えれば借主としての地位を第三者に移転することをいいます。

賃借権の譲渡によって借主の地位はそのままの内容で譲受人に移転し、元の借主は賃貸借関係から離脱します。

これに対し、賃借物の転貸というのは、借主が貸主との契約関係はそのままで、さらに第三者に転貸することで、この第三者との賃貸借の関係では、もともとの借主を「転貸人」、その第三者を「転借人」と呼びます。

転貸の場合は、元の賃貸借契約は従来のまま存続し、その基礎の上に転貸借関係が成立することになります。

 

■譲渡→元の借主は賃貸借関係から離脱

■転貸→元の借主は賃貸借契約を存続したまま転貸人へ

 

 

 

 

 

(2)適法な転貸がなされた場合の法律関係

 

①民法の規定

賃借権の譲渡が適法になされたときは、上記のとおり、元の借主は契約関係から離脱し、特約がなければ新借主が貸主と従前と同じ内容の契約当事者に立つだけで、あまり問題はありません。

これに対して、貸主の承諾を得て有効な転貸がなされたときは、いくつか法律上の問題が生じます。

BC間で有効な転貸がなされると、転借人CはAに対して直接に義務を負うものとされています。(民法第613条)。

すなわち、本来AとCは契約関係がないのに、AC間に直接の関係が生じ、AはCに賃料の請求をすることができます。

もっとも、Cの転借料の方がBの賃借料より多い場合は、AはBに対して本来請求できる額を限度としてCに請求できるにすぎません。

なお、CはAに対して直接「義務」を負うのであって、権利を行使できるのではありません。

建物修繕などの要求はAに対してではなく、Bに対して行うことになります。

 

 

②元の賃貸借が解除されたとき

次に、AB間の賃貸借契約が解除された場合、Cの地位はどうなるのでしょうか。

解除を、合意解除と債務不履行解除に分ける必要があります。

まず、AB間で賃貸借契約を合意解除しても、たとえばその解除にCが実質的に関与していたとか、Cがあらかじめ合意解除による賃貸借の終了に同意していたといった特段の事情がない限り、そのことをCに対抗し得ないと解されています。

これに対し、Bの債務不履行による解除のときは、CはAに対して目的物を占有する権限を失うとしています。

最近の最高裁判例も、「賃貸借が賃借人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求したときに、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する」と判示しています。(最高裁判決・平成9年2月25日)

 

しかし、合意解除と債務不履行による解除とをそのように区別してしまうと、AがCを何とか追い出したいときは、Bにわざと債務不履行をしてもらって解除すればよいことになります。

そこで、解除をする前にCに履行の催告をすることを要求すべきではないかとの学説もありますが、最高裁は、

(土地の賃貸借契約の場合ですが)適法な転貸借関係が存在する場合に、賃貸人が賃料の不払いを理由に契約を解除するには、特段の事情のない限り、転借人に通知等をして賃料の代払いの機会を与えなければならないものではない」と述べています。(最高裁判決・平成6年7月18日)