賃料をめぐるトラブル【賃貸人の立場】
賃料をめぐるトラブルで最も多いのは、滞納問題です。
どのような対処をすればよいのか、強制的に退去をさせてもよいのかわからない人もいるでしょう。
対処法や、未然に防ぐ方法など紹介します。
建物賃貸借における賃借人の債務は、その建物の賃料の支払い義務です。
賃料の支払期にこれを履行しないことは債務不履行となることはいうまでもありません。
その場合、故意または過失があるときにのみ債務不履行となるのでしょうか。
一般的に債務者の責に帰すべき事由が必要ですが、金銭債務については、債務者は不可抗力をもって抗弁することができない、という規定があり(民法第419条第2項後段)、要するに賃料支払債務のような金銭を支払う債務については、債務者に何ら責任がない原因で不履行になっても、履行遅滞という債務不履行に陥ることになります。
当事者間に継続的な関係が続く賃貸借契約においては、単に形式的な債務不履行があったという一事のみでは契約解除は認められない、というのが確立した判例理論です。
賃借人のその不払いが当事者間の信頼関係を破壊するに至ったときに、賃貸借契約の解除が認められますが、賃料滞納の場合、どの程度の滞納をいうかについては、一概にいうことはできません。
過去に何回も滞納を繰り返し、話し合いの結果、今後は滞納をしないと借主が約束したのに、間もなく再び滞納が始まったというケースでは、2回分程度の滞納で「信頼関係の破壊」といえる、とされたものがあります。
反対にそれまでの当事者間の長年にわたる円満な関係を考慮して4ヶ月分の滞納のケースで、いまだ信頼関係の破壊に至ってはいないとされたものもあります。
賃料滞納を理由とする契約解除が認められるためには、滞納が初めての場合は、おおむね4~6ヵ月程度の不払いがあり、しかも貸主が何度も催促をしたにもかかわらず借主が応じないという事実が必要と思われます。
契約書中に「賃借人が1ヶ月分の賃料の支払いを怠ったときは、賃貸人は解除できる」旨の条項がある場合でも、上記の理論によって、その条項自体が「例文」と解釈され、文言どおりの効力をもちません。
賃料滞納を未然に防止するための方策としては、
- 遅延損害金の特約を契約書に明定し、可能な限り滞納のデメリットを大きくする
- 法律的に有効とされるかどうかは別として、催告なしに解除できるという無催告解除のことを特約する
- 連帯保証人にしっかりとした人をつける
- 敷金をできる限り多くする。少なくとも賃料の1-2ヶ月分程度というのは避ける
といった考慮が必要でしょう。
現実に滞納が始まった場合、決して甘い対応をしないことです。
滞納額が増えるのに比例して、支払いの可能性がなくなっていくのが実態なので、支払いの遅れが1ヵ月分の段階で執拗な催告を行うことが必要です。
催促の手順として、面談をして口頭による催告→効果がない場合ははがきによる催告→最終的に内容証明郵便による催促を行うのが一般的といえましょう。
内容証明郵便においては、「〇月〇日限りに、支払いのないときは、本件賃貸借は当然に解除になる」とか「〇月〇日までに支払いのないときは、甲は解除できるものとする」というような文言を入れるのが適切です。
内容証明郵便の宛先は、もちろん借家人自信です。
契約者である借家人が行方不明の場合でも、その本人を名宛人として差し出すべきで、賃貸建物にその妻が居住しているからといって、宛名を妻名義にすべきではありません。
また、この段階まできた以上、賃貸借契約書上の連帯保証人に対しても催促するほうがよいでしょう。