賃貸借契約の特約条項による無効・有効事例
今回は、賃貸借契約の特約条項による無効・有効事例について詳しく説明をします。
借地借家法の理念から、「裁判例において無効とされた特約」と「借地借家法上も有効とされた特約」はいろいろありますが、学説上も異論のないものを掲げると次のとおりです。
(1)無効の特約と解されているもの
①契約の解除原因に関する特約のうち一定のもの
・借主が差し押さえ、または破産の申立を受けたときは直ちに契約を解除できる旨の特約
・借主が所有している不動産が競売の申立てを受けた時は契約を解除できる旨の特約
②更新拒絶や解約申入れの制限に反する特約
・貸主の要求があればいつでも即時に明け渡す旨の特約
・貸主からの解約申入れ期間を短縮する旨の特約
・契約期間の満了と同時に賃貸借契約が当然に終了する旨の特約
・貸主からの更新拒絶に正当事由は不要である旨の特約
③賃借権の対抗力を排除する特約
・賃貸借期間内に建物が競売されて所有権が他人に帰属した場合は、契約が終了する旨の特約
・建物の所有権が移動しても当初の当事者間にのみ存続する旨の特約
④民法の一般条項(第90条の公序良俗、第1条第2項の信義則など)によるもの
・契約終了後に貸室内に残置している動産その他の物品は、借主がその所有権の放棄をしたものとみなし、
貸主において任意に処分できる旨の特約
・貸主に連絡なく、一定期間(例えば一か月)以上建物に不在となった時は、
貸室内の物品の所有権を借主は放棄したものとみなし、貸主が自由に搬出することを妨げない旨の特約
・賃料を滞納した場合、一定の予告期間をおいて貸室の鍵を取り替えることができる旨の特約
・天災地変その他不可抗力によって賃貸建物が滅失し、賃貸借が終了する場合は、敷金の返還を要しない旨の特約
(2)有効な特約と解されているもの
・賃貸借物件の使用目的、使用方法を制限する特約
・無断の賃借権譲渡、転貸を禁止する特約
・貸室の無断の模様替え、無断の増改築、構造変更を禁止する特約
・賃料を支払わない時には催告なしに解除する旨の特約や、
滞納賃料が3ヶ月以上に達した時は催告なしで解除する旨の特約など賃料不払いの時の無催告解除等の特約
(もっとも、この特約は一応有効としても具体的事例において、
解除が当然に認められるかどうかは別の問題として、信頼関係破壊の理論によって決せられる)
・借主は契約終了時に造作買取請求権を有しない旨の特約
・合意的な範囲内の更新料支払い特約
・期間を10年とする賃貸借契約において、3年以内に借主が解除した場合には敷金を返還しない旨の特約
以上のとおりですが、ここで注意していただきたいのは「法の理論として無効な特約でも契約書に記載ができる」といった点です。
無効というのは、いざとなった時にその民事上の効力が認められないというのであって、
無効とされる条項でも、「契約を誠実に守らない・不誠実な賃借人の発生を事実上抑止できる」
効果を生ずるものについては、契約書に記載しておくことの意味はあります。