2022.07.12
建物の賃貸借の成立時、授受される金銭の種類とその性格
建物の賃貸借が成立した際に、借主から貸主に支払われる金銭には、家賃のほかに礼金・敷金・保証金などがあります。
しかし、これらの内容は地域において異なる面があります。
(1)礼金
借主から貸主に支払われる一時金のことであり、通常は月額賃料の1~2ヶ月分相当が多いですが、最近では借家市場の状況変化によって、早期の入居を促進するため、これを取らないケースも増えています。
礼金の法的な性格は明確ではありませんが、いずれにせよ契約終了時には返還されません。
(2)権利金
権利金は、借地の場合は主として借地権設定の対価の意味を持つものとして授受されますが、借家の場合もこれと同様に賃借権設定の対価としての意味を持つものがあります。
ただ、居住用建物の賃貸借についてこの名目による金銭の授受は少なく、多くは店舗の賃貸借で授受され、営業上の利益またはのれん代、内部造作あるいは営業権の設定の対価としての意味を持つものが多いと言えます。
権利金の性格にはさまざまなものがあり、多くは契約終了時に返還されないので、授受の際にその性格を明確にし、貸主、借主が一致した認識を持つことが紛争の未然防止のために必要です。
(3)敷金
敷金とは「不動産、なかでも建物の賃貸借契約に当たり、賃借人の賃料債務その他の債務を担保する目的で、賃借人から賃貸人に交付される金銭であって、契約終了の際に返還されるべきものをいい、もし賃借人の債務不履行があれば、その額を控除して返還されるもの」をいいます。
賃貸物件の所有権の譲渡が行われ、所有者が代わったときには、新所有者に敷金の関係も承継されます。
(4)保証金
保証金については、やはり法律上の定義はありませんが、敷金と大きく異なるのは、その内容が必ずしも一定のものではなく、現実に行われているものにはいろいろなものがあるということです。
現在の保証金といわれるものの中には、
①建設協力金の性格を持つもの
②権利金の性格をもつもの
③敷金の性格をもつもの
④賃借金の性格をもつもの
⑤違約金としての性格をもつもの
などがあり、もちろんこれらの性格を兼ね備えているものもありますが、現実に授受される保証金がこれらのいずれに当たるかは、当事者間の約定で決まります。
(5)実務上の留意点
①敷金については、前述のとおり、比較的法律関係が画一的で明確ですが、紛争を避けるため、その返還時期を契約終了時ではなく、明け渡し終了時であること、あるいはその後一定期間経過後であることなどを契約書中に明確にしておくことと、債務の控除の関係について明確にしておくことです。
②これに対し、保証金は前述のとおりいろいろな種類のものがありますから、まず、現実に授受される保証金がそれらのどれに当たるのか、契約書中に明確にしておくことが何よりも望まれます。